遺言の訂正方法について


遺言作成のご依頼をいただくことがよくあります。

その場合、公証役場で作成する「公正証書遺言」をおすすめしていますが、作成方法は公正証書によらなくても可能です。

その1つに「自筆証書遺言」があります。

その名のとおり、自らがペンや筆をとり、紙に遺言事項、日付、氏名等を記載し、押印をします。

間違えた場合は、訂正が必要です。その方法まで民法968条2項には規定が置かれています。

これには、多少、訂正方法を緩く考える判例も出ています。(最判昭56・12・18・民集35・9・1337)

誤解を恐れず簡潔に表現すれば、訂正箇所を直して、印を押すと考えていいでしょう。

 

今回の最高裁判決は、「遺言者が赤いボールペンで斜線を引いた」ことが破棄にあたるかを判断しました。

破棄と訂正は厳密には異なりますが、対象部分の多少と見ることもできるかと思います。

斜線の上に一つ印があれば、何ら争いにならなかったとも考えられます。

 

少し話を変えますが、不動産登記簿がまだコンピュータ管理されていない時代、簿冊の時代ですね。簿冊を「ブック」といったりもします。

この時代、登記事項を抹消した場合、簿冊の登記簿に赤い線を引いて、登記事項を抹消していました。

いわゆる、「朱抹」(しゅまつ)という方法です。

今回の判例を読んだときに、思い浮かんだのはこの「朱抹」でした。

 

では、この斜線の色が「黒色」だったら、最高裁の判断は変わっていただろうか?

この斜線が「消すことができる鉛筆、ペン」でなされていたら、どうだっただろうか?

あれやこれやと考えてしまいます。

 

1.訂正する意思であれば、上記のとおり訂正方法にならってすべきです。

2.破棄する意思があるならば、作成した遺言書を処分してしまうのが一番です。

3.破棄をしないまでも、新しい遺言書に「●年●月●日付遺言書は、本遺言書をもって撤回する」旨を明記することでも対応することも可能であると考えます。

 

ちなみに、現在の登記簿謄本は、正式には登記事項証明書といい、かつての朱抹の方法は、登記事項に下線を引く方法に変わっています。

 

当事務所では遺言の作成、修正についてのご相談を承っています。

お気軽にご相談ください。

 

司法書士 平 野  瞬



斜線の遺言書「無効」 最高裁判決、「故意に破棄」認定


 遺言者自ら斜線を引いた遺言が有効かどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は20日、「故意に遺言を破棄したといえ無効」とする判断を示し、有効とした二審・広島高裁判決を破棄した。自筆で遺言を残す人が増える中、一定の条件下で遺言者の意思を尊重した判断といえそうだ。

 判決によると、2002年に死亡した広島市の男性が生前、土地建物や預金などのほぼ全財産を長男に相続させるとした自筆の遺言を作成。その後、遺言書の左上から右下にかけて自ら赤いボールペンで斜線を引いた。もう1人の相続人である長女が「遺言は故意に破棄された」として、無効の確認を求めて提訴した。

 一審・広島地裁は、男性が遺言を撤回する意思で斜線を引いたことは認めたが、「元の文字が判読できる程度の斜線では効力は失われない」と判断。長女の請求を退け、二審・広島高裁も判断を維持した。

 同小法廷はこの日の判決理由で「赤いボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、一般的には遺言の全効力を失わせる意思の表れとみるべきだ」と指摘。「故意に遺言を破棄したといえ、効力はない」と結論付けた。

【抜粋 日本経済新聞 平成27年11月20日】